『Jineko.net ジネコ 2013 Autumn vol.19』に掲載されました。
2013.12.16
<Jineko秋号>のP.72『セカンドオピニオン』で、
院長が患者さんの質問にお答えしています。
にゃんちゃんさん(31歳)からの相談
■潜在性甲状腺機能低下症と診断され不安に
2度目の流産の際に不育症という言葉を知ったため、夫婦間の染色体検査以外の不育検査はひと通り行ないましたが、そこで異常は見つかりませんでした。不妊治療を始めてからは潜在性甲状腺機能低下症であることを知り、TSH(甲状腺刺激ホルモン)の値を下げるためにチラーヂン®の服薬も始め、排卵障害のためクロミッド®とデュファストン®、念のためバイアスピリン®も飲んでいます。ドクターは不妊期間がまだ1年半だし、2回の妊娠歴もあるからと励ましてくれますが、不安になります。私の流産や排卵障害は、TSHと因果関係があるのでしょうか。
【インタビュアー】
不育症検査では異常は見つからなかったものの、2回の流産の経験から不安を感じておられるようです。
【院長】
まず、「検査をひと通り」行なったとのことですが、どこまで不育症の検査をされたのか気になります。たとえばプロテインS活性、プロテインC活性といった比較的異常の見つかる頻度が高く、治療可能な項目の中から、ひょっとしたら原因が見つかる可能性もあります。
また、2度目の流産の際に胎児組織による繊毛染色体の検査も受けられ、異常を認められなかったとのことですので、ご夫婦の染色体分析は必要ないと思います。
【インタビュアー】
甲状腺機能低下症と流産の関係についてはいかがでしょうか?
【院長】
TSHのみの上昇であれば、私はあまり関係がないと思います。不育症検査の結果や甲状腺より、むしろ気になったのは、にゃんちゃんさんの流産が多嚢胞性卵巣症候群の影響によるものではないかということです。最近、月経周期が長くなった、FSHとLHの値が逆転してLHの方が高いといった検査結果、医師に排卵障害を指摘されている点から見ても明らかです。多嚢胞性卵巣症候群の方はインスリン抵抗性があり、それが原因で流産されている方がかなりの頻度でいらっしゃいます。
もしそうであれば、糖尿病の治療薬でもあるメトホルミンの服用で流産を回避できる場合があるので、インスリン抵抗性や多嚢胞性卵巣症候群について、もう少し詳しく調べてもいいのではないでしょうか。
当院でも、今まで不育症の検査で異常が見つからずに流産を繰り返していた方にメトホルミンを服用して、無事に出産まで至ったケースが多数みられます。
【インタビュアー】
TSHの高値についてはいかがでしょうか?
【院長】
TSHは下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモンのことですが、潜在性の甲状腺機能低下症ではT3やT4といった甲状腺ホルモンの値が正常なのに、TSHのみが高値である場合がよくあります。これはTSHの感度が非常に敏感なためで、私は不育や排卵障害の直接的な要因ではないと考えます。ただ母体のTSHが上がっている場合、行動異常児を出産するリスクが上昇するとの報告もあり、チラーヂン®の服用は続けたほうがいいでしょう。
今後の治療としては、多嚢胞性卵巣症候群がベースにあることは間違いないと思うので、もう少し詳しくインスリン抵抗性について調べること、出産直前までのメトホルミンの服用をおすすめします。不育症検査ではまだあまり目が向いていない領域ですが、私は不育症検査で原因が見つからない方で多嚢胞性卵巣症候群の方にはぜひ試してみる価値があると考えています。
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